【CyclingEXアーカイブ】オーダーフレームの良さって何ですか?CHERUBIM/今野製作所・今野真一さんに聞く

毎年夏から秋になると、各メーカーからロードバイクのニューモデルが次々と発表されます。最近ロードバイクを買ったばかりであっても、ニューモデルの話題はなんだかわくわくするものです。

しかし一方で、もう少し長い目で物事を考えたい——そんなふうに考えることがあります。そして、ふと思い浮かんだのが「オーダー車」の世界。一般的に「フレームビルダー」と呼ばれる人たちがいて、ショップや工房を構え、ひとりひとりに合った自転車を作っているということは、ご存知の方が多いでしょう。

実際にフレームビルダーのもとを訪ねるのは、なんだかハードルが高い行為にも感じます。私も、そう感じているひとりです。大きな自転車店を冷やかしで覗くような気分で、フレームビルダーのもとを訪ねることは、なかなかできません。

Photo_CHERUBIM/今野製作所

幸いなことに、私が生まれ育った東京都町田市には、有名なビルダーで「CHERUBIM(ケルビム)」の名で知られる今野製作所が工房を構えています。チーフビルダーの今野真一さんとは「ハンドメイドバイシクル展」等でお見かけすれば立ち話をする程度の面識はあるので、思い切って工房・ショールームにお伺いしてみることに。そして今野さんに「フレームビルダーにオーダーする」とはどういうことなのか、お聞きしました。

量産メーカーのロードバイクとオーダー車の「買い方の違い」

一般的には、ロードバイクを購入したいと思ったらショップに足を運び、ショップどんなロードバイクが欲しいのか、そもそもどんなふうに自転車を使いたいのかといった会話をショップスタッフと重ねることになるでしょう。

そして目的や好みから完成車の車種が決まり、体格からフレームサイズが決まって——と、話が進んでいく。少なくとも、プロショップと言われるようなところでロードバイクを購入しようと思えば、こんな流れになるはずです。

「そのようにしてプロショップで完成車を買う流れと、フレームビルダーにオーダーをする流れは、基本的には大差ありません。まずは自分が自転車でどういった遊び方をしたいのか、その気持ちを伝えてもらうことが大事です」

そう話すのは、CHERUBIM/今野製作所(以下「ケルビム」)のチーフビルダー・今野真一さんです。

今野真一さん

例えばケルビムのロードバイクをオーダーしようと思ったら、町田か青山のショールームに出向いたり、もしくはケルビムの取り扱いをしている販売店に出向くことになります。そこで、ショップスタッフと話をするという意味では、量産メーカーの完成車もオーダー車も同じ。

「ではオーダー車はどこが違うのかというと、イチから作ることができるということなんです」

今野さんは、そう話します。

イチから作る、それがオーダー車の魅力であり醍醐味

量産品のロードバイクであれば、まず製品のラインナップがいくつかあって、さらにフレームサイズがあって、そういった選択肢の中から自分に合ったものを買うことになります。そして今ではフィッティングサービスが充実しているので、ハンドルやステムといったパーツを交換して、ひとりひとりに合った自転車にしていくことができます。

一方でオーダー車の場合は、有りモノをユーザーに合わせるのではなく、ユーザーに合ったものをイチから作るのです。

Photo_CHERUBIM/今野製作所

「量産品であれば、例えばフレームサイズがMなのかLなのか、どっちつかずということもあるでしょう。オーダーの場合は、MかLかを選ぶのではなく、ジオメトリーをイチから考え、その人に合ったフレームを作ることができます。自分に合ったフレームであることは、人間がエンジンの自転車が二輪車としての性能を発揮する上で、とても重要なことです」

フレームのジオメトリーだけではなく、例えば泥除けを装着するためのダボを設けたり、輪行するときチェーンをひっかけておくフックを設けたりといった、ユーザーの使い方に合わせたフレームを作ることができるのが、オーダー車の魅力です。

ケルビムに限らず、多くのフレームビルダーは何種類かのモデルをラインナップしていますが、それらは「イメージをつかむための一例」と考えることができるでしょう。実際には、それらをベースにオーダーメイドするわけです。

Photo_CHERUBIM/今野製作所

「イチから作るということは、それだけ考えることも多いということ。フレームカラーだって決めなくてはいけません。そういったことに、ハードルの高さを感じる方が多いのも事実でしょう。しかし、すべてをユーザーがイチから考える必要はありません。ぜひ、ビルダーや販売店に相談してください」

ジオメトリーをイチから考えて作ることができるといっても、それをユーザーが自分で考えるということではありません。ビルダーや、その取り次ぎを行なっている販売店に自分の要望、イメージを伝え、コミュニケーションを重ねながら、理想の1台を作り上げていきます。

なぜビルダーが作るオーダーフレームはスチールなのか

ところで、フレームビルダーが作るオーダーフレームというと、素材はクロモリをはじめとするスチール(鉄)が主流ですよね。どうしてスチールフレームが選ばれるのでしょう。今野さんは次のように話します。

「スチールは昔からあるフレーム素材ですが、過去のものではありません。とくに、フレームビルダーが作るスチールフレームは、サイズやジオメトリーを自由に設計できること、乗り味を調整しやすいこと、寿命が長いことなど、他の素材と比べて秀でている点がたくさんあります。重たいからだめなんじゃないか……といった先入観は、ぜひ拭い去ってほしいですね」

そう、フレームビルダーが作るオーダーフレームは、サイズやジオメトリーだけでなく、剛性などもユーザーに合わせて最適化することができます。

Photo_CHERUBIM/今野製作所

「例えば、同じモデルでもサイズが異なれば、使用するパイプの肉厚も異なってきます。また、求める性能によって使用するパイプを変更することもあります。そういったことができるのが、オーダーのスチールフレームのメリットです」

ユーザーに合わせたフレーム作りに適しているスチールですが、スチールなら何でも良いのかというと、そうではないようです。

「オーダーメイドということは、量産品ではないので均一化が難しいということなんです。とくにスチールフレームは均一化が難しいというか、ほぼ不可能でしょう。それを優れたものに仕上げるには、腕が立つ職人が作ってこそです」

Photo_CHERUBIM/今野製作所

なぜスチールフレームは均一化が難しいのか、その詳細は別の機会に譲りたいと思いますが、今野さんは「職人に左右されてしまう」と話します。同時に、「日本には優れた職人(=フレームビルダー)が数多くいる」とも。

「今、日本では若い世代のフレームビルダーも出てきて、頑張っている人たちが何人もいます。欧米のマネではなく日本独自の自転車選びができる、いいムードができていると言えます。こんないい国、ほかにないかもしれません」

オーダー車は決して「上がり」ではない

ところで、フレームビルダーにオーダーすることに対して、それが“上がりの1台”であるというイメージを抱いている方も、少なくないのではないでしょうか。実は私自身が、そう思っているひとり。今野さんは、そんな「心理的なハードルを下げたい」と考えています。

「初めての1台や、ステップアップの2台目としてもぜひオーダーフレームを選んでもらえたらと思っています。とくに、良いものが欲しいけど何を買ったらいいのかわからない——という方に、ぜひオーダーフレームを選んでほしい。そう思ってもらうためには、私たちももっと頑張らないといけませんが」

オーダーフレームは、販売店の店頭に完成車としてずらりと並んでいるわけではありません。手に入れようと思ったら、ショップやビルダーとコミュニケーションを取り始めてから自転車が手に入るまでに、数週間〜数ヶ月の時間もかかります。そういう意味では、確かにハードルはあります。

しかし、オーダーだからこそ手に入る自分にぴったりの自転車によって、パーツ交換で調整した自転車にはない、すばらしいサイクリング体験が得られるのだとすれば、そのハードルは越える価値があると言えるでしょう。

Photo_CHERUBIM/今野製作所

改めてケルビムのラインナップを眺めると、思っていたほど高価というわけでもありません。フレームセットは、20万円台からという価格設定です。なるほど、これなら確かに現実的な選択肢として考えられますし、最初の1台から「良いロードバイク」が欲しい人にも魅力的ではないでしょうか。

「ロードバイクは、自分の力で100kmや200kmといった距離を走ることができる、速くて楽な乗り物です。自分にぴったりと合ったロードバイクであれば、100kmはなんてことありません。ぜひ、ロードバイクのすばらしさをオーダー車で体感してほしいと思っています」

●CHERUBIM/今野製作所
Webサイト http://www.cherubim.jp
Facebookページ https://www.facebook.com/CHERUBIM.japan/

CyclingEXの従来版サイト(https://www.cycling-ex.com)で公開していた記事を一部を再編集の上、「CyclingEXアーカイブ」として掲載しています。
初出:2018年11月9日

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投稿者: wagtail_sugai

須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれの町田市育ちで、現在は川崎市在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。クロスバイクと小田急ロマンスカーが好き。

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