【アーカイブセレクション】KATO渾身の最適解:8620 東北仕様(Nゲージ鉄道模型)

2020年8月、日本の鉄道模型ブランド「KATO」から、国鉄8620形蒸気機関車のNゲージ鉄道模型が発売されました。

大正生まれの8620形は現在でも保存され実際に動く個体がある蒸気機関車で、その華奢なスタイルから、Nゲージと呼ばれる1/150スケールの模型で忠実に再現し、しかもちゃんと走るものを作るのは難しい……とされてきました。実際、誰もが「似てる!」と思うような8620形の模型は、今までなかったのです。

私は1975年生まれで、それは当時の国鉄で「保存」ではなく実際に道具として「実働」した蒸気機関車が引退した年ですから、いわゆる現役時代の蒸気機関車というものを見たことがありません。九州で観光列車として走っている8620形も、残念ながらみたことがありません。

でも、京都鉄道博物館がまだ「梅小路蒸気機関車館」だったころ、保存されている8620形を見たことがあります。

梅小路蒸気機関車館の中を「スチーム号」として走っているところも、1度だけみたことがあります(動かないものであれば、子どもの頃に青梅鉄道公園でも見ました)。

本物を見ても「8620形=華奢」という印象は変わらないのですが、それは近くにC62やD52、D51やC53といった大きな蒸気機関車があって比較できるからの話であって、近寄ればまぎれもなく「巨大な鉄のカタマリ」です。それも、実に手作り感にあふれる。

それに対して2020年に、3Dデータで設計され高度な生産技術で送り出されたKATOの8620形(の模型)は、つまらないくらいにシャープ……なのかもしれません。

でも今、改めて梅小路で撮った8620形の写真を見返し、そしてKATOの模型を見比べると、この模型を作った人たちの熱意とセンスを感じずにはいられません。

※京都鉄道博物館で保存されているものと、今回KATOが製品化したものとでは、同じ8620形でもタイプが異なるのですが、基本的な構造やシルエットは同じです。

意地悪なことを言えば「それでもやっぱり車高が高いような気がするな」などと、思わないわけではありません。でも全体としては、とてもバランスがすぐれた模型であることは間違いないでしょう。受け手の想像でしかありませんが、チャレンジする部分と割り切る部分のバランスが、すぐれているのです。

その取捨選択のうまさがKATOの「らしさ」であり、人はそれを「センスが良い」と言います。そして、設計や製造、組み立ての技術が高まることによって、取捨選択のレベルも数段上がっている——そう感じるのです(私の妄想です)。

現代の技術で、もっともっと細かくすることは、できるでしょう。

でもそれをやったら、とても扱いにくい、楽しめない模型になってしまうかもしれません。

走行性能が、犠牲になるかもしれません(鉄道模型は走ってなんぼです)。

例えば一部を金属にして、もっともっとシャープにできるかもしれません。

でも、製造効率が落ちたり、価格に跳ね返ったりするかもしれません。

いろいろと厳しい条件がある中で、KATOが(割り切りも含めて)果敢にチャレンジし、導き出した最適解がこの8620形なんだろうと、そう思うことにしました。

私の妄想はともかく「みんなが欲しかった8620」が、製品として世の中に出てきました。みんなうれしいよね! 私もうれしいです!

しかしまぁ、それにしたってすごいですよね。

この大きさなんだもん。

●8620 東北仕様
メーカー:KATO(関水金属)
希望小売価格:13,500円(税別)

リンク: KATO鉄道模型ホームページ | 製品詳細 | 8620 東北仕様

※旧ドメインのWAGTAIL Magazineで公開された過去記事の一部を再編集の上、「アーカイブセレクション」として掲載しています。
初出:2020年9月2日

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投稿者: wagtail_sugai

須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれの町田市育ちで、現在は川崎市在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。クロスバイクと小田急ロマンスカーが好き。