自転車〜電車〜自転車で「猫村」を目指す

台北4日目の日曜日、翌日は午後の便で帰国だから丸1日使えるのは最後の日。自転車に乗りたいと思ってはいたものの、どこへ向かうかの決断ができない。できれば「自転車〜鉄道〜自転車」という移動にしたいとも思っていた。台湾の在来線「台鐵」には、自転車をそのまま持ち込むことができるからだ。

前回訪問時の記事:

頭の中には台中と、もうひとつ「猫村」という選択肢があったのだが、うだうだしているうちに時間が過ぎてしまう。さすがにこれではいけないと思い「決めた!」という独り言とともに、自転車とともにホテルを出発した。

基隆河沿いのだだっ広いサイクリングロードを、松山(ソンシャン)駅へ向かい自転車を走らせた。ホテルからいちばん近い台鐵の駅は台北だが、自転車の持ち込みには対応していない。どの方面に行くにしても、台北中心部から台鐵に自転車を持ち込んで移動したいなら、川沿いからアクセスしやすい松山が最適だろう。

松山から瑞芳(ルイファン)までの切符を買った。私は「猫村」に行くことにしたのだ。

ふつうの乗車券と、列車および車両が指定された自転車用切符の2枚だ。瑞芳は九份や十份への玄関口でもあるから電車が混雑していないかと心配だったが、空いていた。最新型の電車にはサイクルラックがあって、自転車を持ち込む私を気に留める人などいない。

「瑞芳の街は走りにくいんじゃないか」

事前にストリートビューを見たときには、そんなふうに思っていた。自転車の通行環境を示すものは見当たらないし、観光客を乗せた大型バスやタクシーも多そうだし——確かに大型バスはチラホラ見かけたが、どちらかというと地元民と思しき人が多い。適度に賑わいつつも、のんびりとした街だった。

自転車で数分も走ればのどかな風景が広がり、たがて台鐵の線路が見えてくる。ここから数kmは、台鐵宜蘭(イーラン)線の旧線跡を活用したサイクリングロードだ。いかにも鉄道用という雰囲気のトンネルに入ると、期待どおりの冷んやりとした空気に包まれた。

猴硐(ホウトン)という駅が、今回の目的地。かつて炭鉱があった街で、目の前を流れる基隆河の向こうには坑道を体験できる施設が、そして住宅などがあった側はカフェなどが連なっているようだ。ネズミ捕り目的でもともと猫が多かったとかで、今では「猫村」として売り出してもいる——ということらしい。

川を渡る橋には、運炭用トロッコのレールが保存されている。渡った先には、坑道体験の説明があった。そして坑道の入り口が見えて……。

かなりマニアックな世界が広がっていた。

動き出しが遅かった私は時間に限りがあるので、坑道へ入って行った列車や、入れ替わりに出てきた列車を眺め、橋を渡って駅のほうへと戻る。

猫は、うじゃうじゃいるというわけではなく、ほどよい感じで、そこにいた。むしろ、人が少ないところに猫がいるようにも感じられた。ちゅ〜るなどのおやつを与えようとする者もいるが、見かける猫は決して太っていない。きっと、猫にも猫の事情というものがあるのだろう。

見たかったものを見て満足した私は、自転車で瑞芳駅へ戻り切符を買い、自転車を電車に持ち込んで五堵(ウードゥー)駅まで戻った。五堵からホテルまで自転車で走れば、行きのホテルから松山駅までの倍の距離が稼げるからだった。

しかし結果は、季節風とは逆の風向きで吹き付ける強風に撃沈。おまけに雨に降られるという有様だった。

そんな日は、食べて補うしかないよね。というわけで、ホテルに戻りシャワーを浴びた後は、街へ出て「蘇杭點心店」へ。

なんとなく頼んだ、油揚げと湯葉巻きらしきものが入ったスープの旨さに感動し、疲れが吹っ飛ぶ。後から隣のテーブルに着いた現地の若者は、このスープをメインに夕食を摂っていた。それを見て私は「自分は正しい選択をした」という気分になった。

リンク: 蘇杭點心店 – 師大路/肉まん | 食べログ

2025年 台北〜淡水サイクリング:

投稿者: wagtail_sugai

須貝 弦(すがい・げん):1975年東京都新宿区生まれの町田市育ちで、現在は川崎市在住。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業Webサイトやオフィシャルブログの制作にも携わる。クロスバイクと小田急ロマンスカーが好き。